AO-MONOLOGUE-LITHIUM 2022

ひとことで言うと、無料で公開している短いエッセイです

医者

詰め込む理由

だんだん体調が崩れる前の生活に戻ってきた。いい意味でも悪い意味でも。いい意味としては、体力や気力が戻ってきた。ワクチンの予診業務は基本的に座って話すだけの静的な仕事だ。楽な商売と思われがちだが、単調なだけにこれが10時間、週6日間も続くと…

お腹が空く理由

昨晩あんなに胃袋がはち切れるくらい食べたのに、いやむしろその反動のせいなのか、今朝は胃袋が搾り取られるような空腹感で目覚めた。完璧な空白がこんなに重いものだとは思ってもみなかった。 とにかく大して動かないのに一日の終わりに強烈な疲れやすさを…

冷たい理由

地方に行けば行くほど冬場の便座は冷たい。もはや痛い。ちょっとした滝行くらい忍耐を強いられる。一切の妥協を許さない。もちろんウォシュレットなんて付随してない。ただのシンプルなトイレの形をした陶器だ。必要最低限の機能しか備えていない。流す。と…

体調が崩れた7つの理由

月に1回くらいの頻度で扁桃腺が腫れて発熱してるという話を僕が配信ですると、「ワクチンを打ってから免疫がおかしくなったと思いませんか?」というコメントが必ず1日に1回は飛んでくる。たぶん陰謀論を信じているひとの目には、世界の事象は全てそうい…

牙を抜かれる理由

東大前で17歳の高校生の男性が受験生らを刃物で刺した事件について、精神科医としての意見を聞かせてほしいと配信で頼まれることがある。ひとを殺すなんて絶対に精神異常者に違いないと決め打ちをして。その人だけでなく、おそらくだいたいの精神科以外の…

仮想の力

ワクチン会場で予診をしていると、せまく仕切られた予診ブースの壁の向こう側からさまざまな声が漏れ聞こえてくる。白い壁というか丈夫な板は仮設されたものなのでだいたい薄く立て付けはそれほど良くない。強く押したりもたれかかったりしたら簡単に倒れて…

ワクチン接種を促す2つの要請

去年の11月ごろ配信でよく「第6波はくると思いますか?」と訊かれた。遅かれ早かれくると思います、と僕は答えたが、そのあと質問は飛んでこなかった。あのころ、ようやくコロナを克服できた、遂にワクチンの成果が出た、手洗いうがいの成果が実った、な…

白衣を着ない理由

僕は医者として患者の前に出るときいつも白衣を着ない。このことでこのあいだワクチン会場の運営スタッフから注意された。医者なんだからちゃんと着てくださいと。医学部時代のポリクリ(病棟実習)のときはオーベン(上級医)の目もあったしそこは大学病院…

致命傷

通年で月1回の頻度で開催される精神分析系の勉強会があった。無事に参加できていれば僕は今年の3月に修了予定だったが、年の暮れにメンタルの不調に襲われて、主催者の先生にお詫びのメッセージをいれてドロップアウトさせてもらった。もうこの世界で長く…

医者の適性とは

僕は医者に向いていなかったのではないか、とたびたび思う。どんなときにそう思うかというとだいたい壁にぶち当たって思い悩んでいるときで、僕の場合、それは深夜の当直中に病棟に呼び出されてムッとするときや当直あけに意識が朦朧とした状態で患者と話し…

正を刻め

去年大学病院を退職して以降、コロナワクチンの予診のバイトをちょこちょこ頂きながら生活している。バイトといっても医者のバイトなので生活には全く困窮していない。いくら医者が溢れた都内でも時給1万円くらいは保証されている。コロナワクチンとなると…