AO-MONOLOGUE-LITHIUM 2022

ひとことで言うと、無料で公開している短いエッセイです

医者の適性とは

僕は医者に向いていなかったのではないか、とたびたび思う。どんなときにそう思うかというとだいたい壁にぶち当たって思い悩んでいるときで、僕の場合、それは深夜の当直中に病棟に呼び出されてムッとするときや当直あけに意識が朦朧とした状態で患者と話してムッとするときだ。いずれにしても医者の適性とは何か? というのは答えのない永遠のテーマと言える。医者になる前は、他人の幸せを優先できる優しさだったり手先の器用さ、頭の良さ、あるいは勤勉さなどを真っ先に思い浮かべたものだが、それは適性というより医者になるための前提だ。前提とは、たとえば旅客機のパイロットになるためには失明していたらなれませんといったものであり、目が見えるから適性があるとは言い難いのと似ている。医者になると給料の割に合わない理不尽な業務を任されることも多いし、休日を返上することを前提とした働き方の病院もあって、やはり他人に優しくなければ続かない職業と言える。これは前提だ。では、改めて医者の適性とは何か? いまは実体験としてすごく思うのは、寝起きのよさ、寝入りのよさ、どこでも眠れる神経の図太さである。この能力はどんな診療科に進むとしても必ず必要とされるのではなかろうか。医者は多忙だ。勤務医なら家に帰れない日が週に一度はやってくる。僕も去年まで単科病院にいたから当直あけに帰れなかった。いわゆる36時間連続勤務を普通にしていた。もし当直中に新患が来て入院になると自分が病棟主治医になるというルールだったので、そんな日は翌朝も新入院の書類作りや処方などでてんてこ舞いだった。仮眠も取れなくて気づいたら夕方になっていた、なんていうことはザラにある。どんな医師でも多かれ少なかれ体験していることで、みんな軽度の意識障害(JCS1ー2)を抱えながら働いている。こんなとき、いつどんなときにでも居眠りできる能力が欲しいと願う。僕は睡眠にこだわりがあって、いつものベッドでいつもの枕じゃないとなかなか眠れない。他の医者みたいにソファで横になって眠るというのが苦手みたいだ。旅先のホテルのベッドでも硬さや枕の素材、高さが気になってしまって寝つきが悪い。不眠症というほど大したものではないが、それなりに好条件が整わないと寝つきが悪い。おまけに寝起きも悪い。朝、目を覚ますためによく寝転がりながらスマホで配信するのだが、ちょっと荒らしコメントが来るとすぐにイラッとする。防御力というかストレス耐性が落ちているのがこういうところで自分でもよくわかる。患者さんの前ではこうならないように気をつけているけれど、それでも一応命を預かる仕事なのでマルチタスクになったりするとわーッとなる。看護師や患者にも苛立ちが伝わってしまうこともあるだろう。よくないね。でも陸上選手やピアニストとは違って適性があるかどうかはやってみないとわからない。僕は対面のコミュニケーションの能力は幼い頃から高いらしく、そういう面では向いているかもしれないという期待を胸に医者になった。まだその道半ばだけど。