AO-MONOLOGUE-LITHIUM 2022

ひとことで言うと、無料で公開している短いエッセイです

冷たい理由

地方に行けば行くほど冬場の便座は冷たい。もはや痛い。ちょっとした滝行くらい忍耐を強いられる。一切の妥協を許さない。もちろんウォシュレットなんて付随してない。ただのシンプルなトイレの形をした陶器だ。必要最低限の機能しか備えていない。流す。ときどき詰まる。以上。 今日の会場は不運なことに冷暖房もついていない。いまどきの日本で珍しい。予診ブースには据え置きタイプのヒーターがそれぞれ配備されている。これからケバブでも焼くのか? というくらい電熱線は橙色の強い光線を放つ。おかげさまで右半身だけがこんがりと焼けそうだ。今日の会場は昨日と違うが、モデルナしかない会場だからほとんど来場者はいない。僕はファーストの医師を任された。昨日も、その前もファーストだった。だいたい医師は平均的な規模のひとつの会場に2-3人いるものだが、「ファースト」と呼ばれるひとりの医師が基本的に経過観察中の急変時の対応をしたり、その日の最後の接種者が終了するまで居残る。ファーストかどうかその日にならないとわからない。残りの医師は定刻より2時間くらい早めに上がることができる。でも彼らと僕とで給料は同じ。これはこの世界の七不思議のひとつだ。決して問うてはならない不文律。若手医師が損するのを前提とした立派なシステム。どういうことだろうといつも腹が立つ。若手医師はいつの時代も少数派から永遠に変わらないルール。まあいいけど。