AO-MONOLOGUE-LITHIUM 2022

ひとことで言うと、無料で公開している短いエッセイです

パパ活という営み

まずこういう不道徳な話をすると、けしからん! と怒鳴り出すひとや、いかがなものでしょう? と諌める風紀委員が必ず湧いてくる。彼らは単なる文字列の刺激に脊髄反射を起こす。もし心当たりのある方はここから先は読まない方が身のためだ。心臓の弱い方が絶叫マシンに乗車できないように。そもそも倫理や道徳が学びたいなら教科書を読めばいい。もちろん僕は男だが医者でもある。ある程度、社会人として模範的なふるまいが世間から期待されていることは否めない。だから、チャラチャラした感じではなく、真面目にパパ活について語る。というか、パパ活に寄与している僕自身について語る。ちなみにチャラチャラした感じというのは、具体的には「ティンダーで〇〇すれば簡単にタダマン食える」みたいなくだらない情報商材のことだ。もっと世の中の女性はパパ活をしましょう! という呼びかけもしない。もしこの文章をそのようにしか読めない、読解力が欠落したひとがいたらここから先は読まない方が恥をかかずに済むだろう。 そもそもパパ活というのは男性から見返りとして金品を受け取った女性がその男性に性的に奉仕する活動のことであり、エンコー(援助交際)はその一部である。エンコーは今では「大人」という隠語で呼ばれ、肉体関係なしの食事のみのデートはそれと対照的に「健全」と暗に呼ばれる。僕は基本的に大人でしか会わない。健全で男性が金品の見返りに得られるものが何なのかよくわからないし、そもそもノーリスクで大金を稼ごうとする若い女性の姿勢になぜだか無性に腹が立つからだ。フェアじゃない。公園で鳩に餌を与えるみたいに、なんとなく暇潰しがしたい、という馬鹿な富豪がいるから成り立つ商売なのだろうけど(僕は公園で鳩に餌をやる行為も理解できないし、そんな僕を知っているのだろうか、そもそも鳩が群がってこない)。過去に大量の女性とやり取りしてアポ取るだけで疲れ切ってしまったので、今では新規はほとんど募集していない。それでも条件が合致した女性5ー10名と安定した長期的関係を築いている。配信でも特に隠していない。去年それまで付き合っていた女性と正式に破局したし、大学病院も辞めたし、もう誰にも遠慮する必要がなくなった。もちろんいまも誰にも迷惑をかけていない。むしろ定期的な関係にある女性たちからたびたび感謝の意を口にされることが増えた。経済的援助は正直あまりしていない。僕は金品というか、僕の時間とスキルを主に提供している。女性にはほぼ見返りは求めていない。女性には僕が複数の女子と関係を持っていることを告げている。妙に嘘をつくより正直に伝えることが誠実さだと信じている。この条件にしてから女性側から不満が出たことは今まで一度もないし、また会えないかと誘われる。年明けにわざわざ新年の挨拶のメッセージを送ってくれたひともいた。恋愛感情なのか? と問われると、それは違う。なぜなら彼らにはちゃんと彼氏がいるし、僕はちゃんと恋愛相談に乗っているからだ。会うとき以外でメッセージを交わすことさえない。じゃあその関係っていったいなんなのか? というのがよく僕の配信では話題になる。少なくともセフレではなさそうだ。さすがに金銭を渡さないとなると会ってくれるひとはいない。これまで「金銭なしでもいいから会いたい」と猛烈にアピールしてくる性欲の強い女性もいたが、彼らはおおむね人格にいくつかの深刻な問題を抱えていた。金銭の授受をやめると、女性は身勝手な主張を繰り返すようになり、悪く言えば「女性の方が偉い」と思い込んでしまって金銭以外の無理難題を突きつけてくるので関係はすぐに破綻した。お互いのために、例えば交通費とかホテル代とかお小遣いとか、最低限の出費は男性側が持った方が話はスムーズに進むのではないだろうか。 ただの食事とは違って同じベッドの上で一糸まとわない。生まれたての姿で抱き合う。もっとも無防備な姿を相手に晒すことは、心の交流を起こす上での重要なメタファーになっている。鼓動が伝わる、皮膚が濡れる、毛穴が開く、舌が乾く。全部相手に見透かされている感じがしてきて、嘘がつけなくなる(そもそも見知らぬ男女なのだから嘘をつく必然性もない)。一緒に汗をかいてシーツを濡らす。すこしだけ冷たくなった肌を互いにまさぐり、薄暗い天井を見詰めながら、親にも言えないような恥ずかしい未来について真剣に語り合う。世界中のあらゆる種類の靴を作りたいという女性もいた。その女性は先天的に足に障害を負っていた。僕は静かに足を愛撫し、その夢が叶うと良いねと伝えた。シャワーを浴びてエレベーターの付近で別れた。会う前よりイキイキとした足取りで女性は満足そうに建物を出ていく。会うたびに見違えるように綺麗になっていく。しばらく余韻に浸る。元気をもらえるのは僕のほうだ。 彼氏の元へ戻っていく女性の美しい後ろ姿をそっと見送る。彼氏の待つ温かな部屋が透けて見えてくる。僕は空っぽの部屋に戻る。寂しいという気持ちがないといえば嘘になるが、愛し合って殺し合うくらいなら僕にはこのくらいで十分だなと思う。