AO-MONOLOGUE-LITHIUM 2022

ひとことで言うと、無料で公開している短いエッセイです

黙っていた理由

日曜日も精力的にワクチンの仕事に取り組んでいる。お上のお達しでワクチン接種が推進されている。でも会場の数は増えないので、シンプルに医者の労働時間が長くなった。9時ー19時半が前提になっていることが多い。これまでの9時ー17時に比べて疲労度が全然違う。だいたい1日に550名を3人の医師でさばくとなるとなかなか大変だ。100人を超えたあたりから意識が薄らいでくる。あれ、さっきもこのお婆ちゃん見たな、みたいな錯覚に陥る。同じ人たちが会場を何周もしているのだろうか。ひとは1日に100人以上と会ってはいけないのかもしれない。いずれにしても今月、来月あたりが掻き入れ時だ。収入が安定しない。見通しのたたない身分だ。多少忙しいくらいなほうが安心できる。今日の会場にはなぜだか中島みゆきが流れている。運営のスタッフの趣味だろうか。なかなか悪くない。BTSとか流行り物が鳴り響く会場に比べたら、中島みゆきのほうがしっくりくる。忍耐に訴えかけてくる。コロナや副反応に負けず頑張ろうとひとびとは奮い立つ。 ところで、しばらくブログを書かなかったのは、戦略的にそうしたというより、そうせざるを得なかったからだ。呼吸器症状がひどくて、しばらく咳止めの内服が欠かせなかった。それに伴って食欲も減退した。胃が受け付けなかった。発症3週間が過ぎてようやく戻ってきたが、まだ朝方に軽い咳がある。体の調子が狂うと精神も健全とは言い難い。目に入るもの、耳につく音など、なんだかどれも不快なものに感じられる。こういう状態のまま文章を書こうとすると、どれほど純粋な気持ちで望んでも、いくらか当初の意図が歪められた形で表現されてしまう。ちょうど配信を荒らされた時期も重なっていた。書くことがそういった不快な事象、人物に向けた復讐や嫌がらせなどの手段に成り下がってしまう。口を開けば自分でも驚くような嫌味しか出てこない。これには失望させられる。何回かトライしたが、結局途中から違うほうに話が逸れて、次第に気分が重くなって、書くのが嫌になって遂にやめた。自分を傷つけてくる誰かに向けた挑戦や反撃などどうでもいいではないか。いまは素直にそう思える。時間の無駄だとはっきりと断言できる。しかし、そのときはそうは思えなかった。呪い殺そうと本気で思っていた。それくらい心に余裕がなかったのだろう。文章的視座が完璧に失われていたのだ。そういうときは筆を置いて黙って空を見上げるしかない。それ以上余計な心配をかけたり、誰か大切なひとを無闇に傷つけたり、匿名の誰かを呪うことのないように、心に蓋をしてただ黙って嵐が通り過ぎるのを待つしかないのだ。