AO-MONOLOGUE-LITHIUM 2022

ひとことで言うと、無料で公開している短いエッセイです

時間をかけて学んだこと

昨年の6月くらいに正式にそれまで付き合っていた女性と別れた。その1年前からほとんど連絡を取り合っていなかった。5、6年間付き合っている中で大げんかしたことが何回かあって、そのつど会話しない冷却期間のようなものがあった。交流が途絶えて1年もの歳月が過ぎようとしていた。さすがにこのまま中途半端なままはお互いにとって良くないと思い、直に会って僕のほうから別れを切り出した。気持ちは最後まで揺らいでいた。吐きそうだった。なんだかんだ言ってずっと付き合ってきた、僕たちは何があっても乗り越えてきたんだ、という揺るぎない実績があったし、これを覆すのは難しかった。冷却期間の後は決まって優しい言葉で話すことができた。本当のその人にようやく出会えた気がした。きっと怯えていただけなのだ。相手の怒りや不機嫌の裏側にある不安定さを見通す余裕も生まれた。しかしそれも錯覚だった。しばらくすると不仲が再燃し、本当にこいつはどうしようもないやつだな、と口論の末に僕は怒りを爆発させた(相手の女性も同じことを思っていたのだろう)。彼女もすごく言い返すほうだった。黙った分だけ怒りを爆発させた。今でも1日に7回くらい過去に彼女に言われた文句を思い出し、新鮮に傷ついている。交通外傷後の後遺症みたいに。シャワーを浴びている時もご飯を食べている時も厳密にいえばいまもリハビリの途上にある。冷静の振り返るにはまだまだ時間を要するかもしれない。 彼女にも言い分はあるのだろうが、たびたび僕の言動に対して不満を述べた。彼女と一緒にいるとまるで自分がダメ人間のように思われた。上から目線がやはり気になった。20歳を超えてようやくできた初めての彼女というのもあったし現に僕に至らない点がたくさんあったのかもしれない。それにしても、である。何か激昂した拍子にそのことを率直に取り上げると、あたしだってずっと我慢していた、と秒で打ち返されて、全くお話にならなかった。ものすごい罪悪感に苛まれた。ご飯が食べれないという症状を訴えて日に日に痩せ細っていく彼女の姿を間近で見ていると、まるで僕が彼女を傷つけているような感覚に襲われた。研修医時代は最も厳しい環境を求めて地方の病院に行った。そのことも都内に住む彼女にはあまり快く思われなかった。会うたびに話したいことがある、と不満を延々とぶつけられた。たまに思い出したかのように感謝の言葉は聞かれたが、愛情を受け取ることが彼女としての当然の権利、とツンとした顔をした。むしろ「あたしは不幸」「あなたのせい」という非難のこもった裏メッセージが全ての言動に刻まれていたような気がした(本人は否定するだろうしこれはあくまで僕の感じ方でしかないが)。僕もいい彼氏になれなかったことは素直に認めなければならない。ただ、わからないなりに頑張っていた。なんでそんなことまで言われないといけないのか? といまだに蒸し返して寝苦しい夜がある。具体的なやりとりは思い出せないが、景色とそれに結びついた未処理な感情がところどころ鮮烈に蘇る。好きだから付き合っていたというより可哀相だからとかこんな状態で見捨てたら自分が悪者じゃないかという胸糞悪さから、必死にあの関係にしがみついていたような気がする。何度も別れようと決心したが、衝突するとまもなく妙に仲直りしてしまって決心が揺らいだ。東京から熱海に向かう列車の中で別れの手紙を書いたこともあった。結局で息が詰まって最後まで書き終えれなかった。 あまり悪口や陰口を書くつもりはなかったが、やっぱりあの言われ方に関して納得がいかない自分の胸中は書かずにはいられなかった。 失恋したらみんなどうなるのだろうか。悲しいとか寂しいとか心にポッカリと穴が開いたとかだろうけど、僕はむしろホッとしている。もちろん恨んでもいないし彼女のその後の幸せを切に願う。綺麗なひとだったからきっとすぐにいい男性が見つかるだろう。時間をおいて冷静な頭でもう一度考え直してみると、僕のほうこそそもそも恋愛に向かない人間なのだろう。僕の側に本質的に欠陥があるに違いない。たとえば大げんかしたあと、冷却期間中に出会い系アプリで見知らない女性と会い始めたが、そこで異性と複雑な情緒のやりとりがないことにとても癒された。その場限りの関係というのが重くもなく軽くもなくちょうどよかった。エンデリ業者みたいなあまりにも悪質な女性や、セミプロみたいなビジネスライクなやりとりしかしない無口な女性には興醒めだが、それなりに普通に会話を楽しめる浅めの関係が思いのほか心地いいと感じた。そこから今の孤立した生活が始まった。両親の泥沼化した離婚調停は自分の呪われた将来を占っているかのように思えてならなかった。女性と結婚する僕の姿は想像もつかないが離婚届に印を押す光景はリアルにイメージできた。僕の人生ゲーム。ここがスタートでありゴールなのだと時間をかけて学んだ。

 

 

ao-hayao.hateblo.jp

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