AO-MONOLOGUE-LITHIUM 2022

ひとことで言うと、無料で公開している短いエッセイです

死ぬよりはまし

新年にYahoo!ニュースのトップニュースに後輩が取材を受けた記事が載っていた。医局のグループラインに情報が流れてきて、リンク先を見たらやっぱり立派な記事だった。とても誇らしい。努力は報われると。でも記事を読むことにはなぜだか抵抗があった。きっと立派なことが書かれているんだろう。希望に溢れた未来にある種の眩しさを感じる。闘いに勝手に破れてフリーターみたいなことをしている僕は。 今日もスポットの仕事に向かう。指定された場所と時間に間に合うか少し心配しながら。給料体系は違うけどいわゆる派遣社員ということには違いない。こんな姿は恥ずかしくて後輩には見せられない。死にたいと思うこともたびたびある。そんなに卑下しなくったって医者なんだからいいじゃないか? と激励というか嫉妬攻撃をぶつけられそうだが、そう言うあなただってアフリカのひとに比べれば餓死や脱水で死なないのだから贅沢な悩みを腹に抱えていると言えよう。僕とそんなに変わらないじゃないか。ひとはそれぞれの人生のステージに応じた重さの困難を抱えるものだ。子供だから楽とか大人だから辛いというものではない。たいていひとと比べると幸せは小さく、不幸せは大きく見えるものだ。錯覚というやつ。死にたいとあなたも思うならきっとあなたも僕と同じところに立っている。そんな時あなたならどうする? 僕は「このまま死ぬよりましだろう」と自分の日頃の働きを静かに肯定する。働けないなら、息をすることに全ての意識を割り当てる。1日の終わりに、少なくとも息をできたという事実を認める。ふたつもできないならひとつは諦めて残ったひとつに集中すればいい。誰も褒めないならせめて自分で褒めればいい。死ぬよりはましさ。何度でも言う。死ぬよりはましなのだと。